何人かでチームを組んでサイト開発を行う。最初は色々とゴタゴタがあっても、共に進んで行けるなら、その内にチームワークが生まれてくる。プロジェクトを何本か経験するうちに、アウンの呼吸で開発が進むようになる。詳細な指示を出さなくても、チーム内だけで通じ合える言葉のような記号のようなモノが芽生えてくる。仲間に対する信頼に裏づけされて、職場が心地よい空間に変わっていく。
顔を合わすたびに激論し合った仲間も、そんな事があったこと自体嘘のような旧知の仲になっていく。依然として多少の緊張感はあるものの、何だか何を言っても許されるという雰囲気が少し漂う。曖昧な指示を出しても、仲間が的確に補ってくれる。時に、こちらのアイデアを上回るアイデアで。心地よい環境が、心地よすぎるそれに変わって行く。
エンジニアだった頃、一番の友はデバッガであった。自分で良しとしたコードが動かないとき、そいつは容赦なく私の非力を目の前に見せてくれる。気分を良くしてくれる画面は殆ど見せてくれない。動くべき動きをするとき、そいつはソソクサと終了して、次のコマンドを待つ。動作すべきでない動作をしたとき、私が再考するのに必要な情報を差し出してくれる。媚びもしないし、愛想も悪い、使っていて楽しい思い出なぞついぞないが、一番の戦友であった。泣きそうになって見つめた先も、思わずガッツポーズをしたときも、モニターにはこいつが居たような気がする。
Webサイトを想いながら、こんな相棒が居て欲しいと感じるようになった。アウンの呼吸の仲間も良いが、自分の考えが適切かを検証するのに付き合ってくれる愛想の悪い相棒が欲しい。頭に描いたページ画面を忠実に迅速に現実のものにしてくれる HTML エディタではなく、頭に描いた構想をチェックするためのツール。できつつあるサイトが想い描いたものと比べてどうなのかを的確に知らしめてくれるツール。自己吟味ツール。
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冒頭のチーム体制が人を核としたコミュニティだとしたら、他方ツールや技術等を核としたコミュニティというものがある。Photoshop や Macintosh のコミュニティが分かりやすい例だろうか。こちらは、共通の基盤を持ちはするが、共通の嗜好は持たない。「どうあるべきか」という理念やヴィジョンが核になっているように思う。
「Photoshop 使い」達は、私が見る限り、Adobe 信者ではない。Macintosh のツワモノ信者は、まず間違いなく Apple 信者ではない。現状に対して多くの反対票を投じ、「正しい」道に進むことを願い続けている。しかし、ここにも、そのコミュニティの中に居る心地よさが存在する。先を見る眼差しの中に連帯感がある。
人やチームや企業に対する忠誠心は時として道を誤まらせる。しかし、自己吟味/検証に使えるツールを共通基盤に置いたなら、吟味する視線の先には、チームやリーダの姿ではなく、エンドユーザの姿が常に映ってくるだろう。その喜んで使うさまを目指して構想が広がっているのだから。
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Webサイトは生き物である、常に更新・再生していかなければすぐに腐る。これが正しいのであれば、それを構築する組織も常に新陳代謝をしていかなければならないだろう。それは個人の意識レベルでも良いのかもしれないが、人単位の動きの方がダイナミックだ、その影響も結果も。
人を中心とした組織は後進育成の点でも脆い気がする。よほど教育に気を配るリーダでなければ、「技術は盗むもの」という従来型で突き進むのではないだろうか。伝統工芸であれば、それなりの工程が目に見えてあり、追跡も可能だろう。しかし、Web は初期構想のアイデア図は、呑み屋で描かれた物であったり、ホワイトボードで殴り書きされたものであったり、残っていることすら稀ではないだろうか。一番肝心のここの情報は盗むことすらできない。
全て同じ体験をしていかなければ同じ知恵が習得されないのでは、効率が悪すぎる。習得の意思があるものには、効率の良い学習システムがあっても良いのではないだろうか。先達の構想夢想図を活きたテキストにできないだろうか。また、後進の構想夢想図を、先達が気軽にレヴューできないだろうか。
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短期間に発達しているサイト構築業は、まだまだ課題が山積みだ。しかし、何かを変えれば、これらの問題が解決に向かうかもしれない。
「様式はいろいろであるものの、問題解決型のリーダーに共通に備わっているものが1つある。それは、もっとよいやりかたは必ずある、という信仰である。」(G・M・ワインバーグ/スーパーエンジニアへの道-技術リーダーシップの人間学)
http://kyoritsu-pub.topica.ne.jp/bookhtml/0102/000025.html
今、Webサイト構築で悩んだり苦労している人は、皆、問題解決型リーダ候補者だ。その一人として「もっとよいやりかた」を探したい。
以上。/mitsui