Webの先達の話に触れるのが好きだ。有名誌に載っている連載は大抵目を通すし、機会あるたびにセミナーにも参加する。大抵うなづいたり感心したりするばかりだ。
自分の経験も交えて整理をしてみた。どの手法も、最大の敵は、「戻し」だろう。ある程度作業が進んだ上で、クライアントの意向等から、ある時点まで引き戻されることだ。それまでの労力も熱意も全て無理やりリセットされる。しかも、あまり論理的説明が無いことの方が多い。
この理不尽に抗する手法は下記3つに大別されるか(ネーミングはご愛嬌):
(A)確認チェック型
(B)労力換金型
(C)短期決戦型
(A)確認チェック型は、例えば1つの工程を複数の「フェーズ」に分け、そのフェーズを終えるたびに確認作業を行う。関連部署全員の判子をつかせたりもして、兎に角、言った言わない的論争の可能性を断つ。1つ1つ石を積み上げるかのように確認をして進んでいく。万が一、戻り指示が出そうになっても、判子が押されている進捗管理表を突きつければ相手も黙らざるを得ない。言わば、理性と証拠によって戻しを禁じている。
(B)労力換金型は、かけた人件費自体で課金していく方法。戻りが発生しても、そのために工期が延びればそれだけ開発費がかかることを了解の上でスタートする。そもそも契約自体を、構想段階と構築段階に分けてしまうことさえある。戻しを発生させるボトルネック(大抵人だ)に経済感覚をもって対処せよと迫る方法論。戻しを行うとその分費用がかさみますよ、それでも戻しますかと問いつつ、開発サイドのサービス戻し残業のリスクを軽減する。開発は無料奉仕ではないと分からせた上でのブレーキと言えるかもしれない。
(C)短期決戦型は、スタートの号令の前に可能な限りの情報提供をクライアントに依頼し、圧倒的なスピードで処理し、試作し、完成まで一気に持っていく方法。開発途中で浮かび上がる「よりよい案」は、次フェーズにずらし込んで行くという前提を持ち、更にWebサイトはそう長くない内にリニューアルするものだという大前提を持つ。戻しを要求するタイミングすら与えずに納品して逃げ切る。気が付いたときには出来上がっていて、デザイン変更をするなら別開発(再々構築)ですねと大らかに言う。
ここ1~2年までは、A/B型が多かった気がする。しかし、最近はC型の成功事例を聞くことが多い。A/B型は開発側のリスクをできる限り少なくすることが最大の目的だし、クライアントも含めた当り前の管理を具体化した感がある。しかし、いざ戻しが発生して、たとえ経済的にバックアップされても、作る側も作られたサイトもハッピーだったのだろうか。
サイト開発をしている時、情熱をもって作り込んだ後、戻しが発生して、クライアントは良心的でその分(日の目は見ない作品)の対価を払ったとする。でも、それで済むのだろうか。大切な思い出の品を壊されて、お金で弁償されたような後味の悪さが残らないだろうか。Webサイトは、出来上がっただけでは駄目で、作る側も使う側も熱意の部分で満たされないといけない。機能だけを提供している訳じゃない、ツナガリも提供しているのだから。
どっしりと構えてサイト開発を行おうという時の「緩んだような感覚」を体験したサイト開発者は多いと思う。定例で1週間に一度担当者と話を詰める。こちらが用意した膨大なアイデアを前に、担当者は商品に対するコメント1つ考えて来なかったりする。忙しくてねぇと平気な顔の御仁も居る。サイト構築に対する熱意、想定ユーザに対する愛着、それらのカケラもないことを寒気と知らされる瞬間だ。単に上から言われた仕事だからという感覚でサイトを作ろうとする。そんな仕事にあたった時には、くさりたくもなる。振り返らせて見せると意気込みもするが、アツっぽく語り合いたいという欲求不満が溜まる。
(C)短期決戦型は、担当者に開発期間中は他の仕事をするなと言わんばかりの凄みがある。本気でサイトを構えたければ死ぬ気で考えろ、と。その代わり、作る側もありったけの力を注ぐ、と。何故サイトが必要なのか、どうすれば想定ユーザがハッピーになれるのか、その結果このサイトはクライアントに何をもたらすのか、最終ゴールは何か、それを何で計測するのか。矢継ぎ早に担当者に質問が行く。その間、作る側はクライアントの業務知識を吸収する。クライアントと作り手が、同じ方向を見て真剣勝負をする。
きっと、嵐のような数週間だったと誰もが思うような濃密な時間の中でサイトが巣立っていく。時間と創意と汗の三つ巴の戦いだ。巣立った(世に放たれた)サイトは、それからも愛情を持って見守られるだろう。開発者が何度も訪れては、自慢し、改良点を考え、ログと睨めっこもする。そして、次のリニューアルの際に「もっと凄いのを」と思われ続ける。そんなサイトには最初の画面からオーラを感じる。なんかちょっと違うぞ、ここは。しかも、慢心を感じない。そもそも一回で最終形態に辿り着こうとしていない分、まだまだ深化していく予感を感じる。
そもそも人間には膨大な情報を抱えながら意識を1つのことに集中させることが難しいのだろう。それは担当者にも開発者にも言えることだし、ユーザの動向や意識が短期で揺れ動いているので、短期決戦は必然な流れかもしれない。意識が熱いうちに仕上げる。
しかし、(C)短期決戦型は誰にもできるという訳ではない。明らかに至極の技術を有するという自信と実績が必要だろう。そのハードルを越えているチームはそうそう居ない。しかし存在する。彼らはここ数年の間に、そうしたワークフローでクライアントと組める体制を整えてきたのだ、超一流の仕事をやりながら。
次の仕事の受け方まで想定して、今の仕事をやり遂げる。今、学ぶべきは、そうした「先見の明」的感覚とその実行力なのかもしれない。セミナー会場を後にするとき、なんだか元気玉をもらったような感覚になるのは、現場が忙しいなんて泣き言いう暇はない、もっと先が、もっとエキサイティングな先が、あるんだと思わされるからだろう。
以上。/mitsui