Ridualの製品化を考えて市場調査を進めていて、気になる動きを感じてきた。最近のデザイナに対する要求で、「儲けることができるか」という点への力点を強く感じる点だ。
自分の技術を高めることと、それで儲けるられることとは少し異なるスキルが必要だ。自分の技術を適正価格で売る技術。私見ではデザイナと呼ばれる人にこの熟練者は少なく、この技術に長けるようになると肩書きはともかくデザイナではなくっている人が多い気がする。勿論両立できている人もいて、それはまさに超人の域である。
別に清貧を勧めている訳ではない。デザイナが豊かにあるべきだという論を撤回する訳でもない。デザイナが儲けるスキルを身につける事自身には大賛成だ。しかし、何か違和感を感じる。更にデザイナを窮地に追い込んでいる気がするのだ。
デザイナと一括りに言っても様々な仕事があるだろうが、自分のアイデアを誰かの賛同を得るために「示す」という行為または業務は共通していると思う。相手が上司だろうが、クライアントだろうが、中継ぎ業者であろうが、そのような状況は存在する。その場合、旨く相手に伝える術(すべ)という意味では、こうしたスキルは必須だろう。しかし、それを金に換えるという、錬金術の域に関しては少し別分野ではないかと思っている。
金儲けへの接点をなくして職人について議論することは、青臭い理想論のように思われるだろう。特にこの不況期にあっては、金儲けに繋がらない話は議論の対象にもならないかもしれない。しかし、一緒にサイト構築をする時に、パートナーに求めるのモノは、金計算の鋭さではなく、「職人的こだわり」である一面は否定できない。デザイン修正をお願いするたびに、それは0.2人月かかります、と言われたら興ざめだ。チーム内にあっては職人であり、客に対しては徹底的なセールスマンであることは可能であろうが、それは万人が達せられる域ではないかもしれない。
諦めからそう思うのではなく、個人商店ならいざ知らず、ある程度の規模のデザインチームにおいて、分業って何だろうと考えるのである。こだわりを筋としたデザイナを擁するチームの営業は、その自分達の強みを最大限にアピールして、売り込むスキルを持つべきだと思う。デザイナが自分の殻の中だけに閉じ篭るのを良しとはしないが、何もかもデザイナに求めるのではなく、分業をちゃんとやろうよ、と言いたい。
優れたデザイナ、特にWebデザイナに求められる資質は、短期間に揺れ動いている。グラフィックから、情報整理、バックエンド(DB)技術、広告手法、マーケティング、更に経営コンサルに近いものまで。仮にこれらを習得することが可能だとして、皆がこれを求めたら、どのデザイナも独立してしまう。そんな状態が良いのだろうか。そして、そうしたデザイナを擁する企業のお偉方は、一体何をするのだろう、という疑問に答えが出ない。経営者を代わっても良いほどのスキルを要求しているのだから。
デザイナのスキル養成に関する道は幾つも出てきた。しかし、デザイナを擁する上司の養成コースの話は余り聞かない。対して、エンジニア集団のマネージャ育成コースはそこそこあるし、通常のビジネスマネージャ育成コースはもっとある。デザイナは数が少ないのかもしれないが、適正にスキルを発揮するようにするマネージメント方法論が育っていない。職人気質のデザイナが率いる一子相伝的小集団時代が長かったせいかもしれない。
しかし、時代はデザインの方に少しは向いている。日産の復活劇にデザインがどれほど重要だったか等は様々な形で報道されている。デザインを基本路線とするプロダクションが、ビジネスWebサイトを成功に導いている例も多い。
私の頭の中で、デザイナという社員のポジションについて、ずっとすっきりしない状態が続いていたのだが、最近少し納得できる言葉に出会った。日経ビジネス等三誌が合同編集した特集号「情報力を鍛え直す」で、P.F.ドラッガー氏が「テクノロジスト」という言葉を使っている。
テクノロジストは、単なるホワイトカラーではない。第一の特徴は、「出世を望まず、専門を愛す」という点。更に、「テクノロジストに通常の管理はいらない」、「能力が高く責任感が強くテクノロジストは勤務管理がなくても、働きに手を抜くことはない」から。「経営者は部下の管理以外に時間を使えるようになる」。
自分の何年か先を考えるとき、これで良いかどうかは置いておいて、なんとなくしっくり来た。但し勿論上記で定義される人種は最近に出てきた新種ではない。直ぐに頭に浮かぶのは、熟練印刷おじさん達や、油まみれになりながらコンマ数ミリの精度のレンズ職人、酒蔵の酒職人...等など、何故か伝統的な分野。でも多分、ドラッガー氏の言っているテクノロジストは、IT分野の旗手たちに焦点があっていて、現時点身についている技術にこだわらずに最新最良の技術を追い求めていける人達のことだろう。常に最新情報にアンテナを張り、与えられた課題に最良の「解」を提供することに全力を注ぎたい人達。
IT不況が続くおかげで、モティベーション(動機付け)という分野にも注目が集まっている。どうすれば、「やる気」がでるのか。上司も部下も未来に希望を抱けない。それなしに続けられる生産活動のアウトプットの品質に問題が出る。品質に問題のある製品は市場に受け入れられない。更に業績が悪化する。更に明るい未来を想えない。...こうした悪循環を絶つために、経営層として何が出来るのか。出世を望まない人種に、今までの人参ぶら下げ作戦は通用しない。
時代は、デザイナに更に何かを求める時代から、デザイナを活用する人達に何かを求める時代へと移行している。もはや「僕ぁ、デザイン分からないんだよね」なんて悠長に言っている時代ではない。自分の手駒の力をどこまで引き出せるか、それが手腕と言うものだ。私の感覚では、デザイナに求められる能力は、そうした自分の「親」を見定める力だと思う。自分が「親」になる能力は、そうした気質のある人の分野だろう。見定める力が育てば、進む道を決断する「勇気」が次に必要なモノかもしれない。勿論問題はデザイナだけではない、Webは様々な分野で「中抜け」を誘発している。おかげで様々な「新人類」が誕生している。Flashのようなデザイナとエンジニアの直系子孫をどうハンドリングする。今までのマネージメント手法では舵取りができないのは見えてきている。
私の結論はいつも、「人」に帰着する。自分達の才を最大限引き出せる職場で働きたい。それは自分が経営者でない限り、そういった上司とがっぷり四つに組んで進みたいということを意味する。「儲けられないデザイナ」の良し悪しを品定めするだけの上司は要らない。「儲けられないデザイナ」で如何に儲けるかを立案できる上司が必要だ。勿論、デザイナもオンブに抱っこではなくて。
以上。/mitsui
ref:
・デザインの時代(読売/2002.12)
http://adv.yomiuri.co.jp/ojo/02number/200212/12toku1.html
・ブランド確立にデザインが大きく関与(2002.11.12)
http://biztech.nikkeibp.co.jp/wcs/leaf/CID/onair/biztech/mech/216453