企業ウェブ・グランプリというイベントがある。今年で3回目。企業のWeb担当者が集まり自分達で自分達を吟味する。コンセプト&アーキテクト部門、デザイン&クリエイティブ部門、ガバナンス部門などなど幾つもの視点があり、それに応じて賞が設けられる。そして年間最優秀賞(グランプリ)は、参加企業に投票権が与えられ会場での投票を経て決定される。
- Japan Web Grandprix | 企業ウェブ・グランプリ
- http://www.web-grandprix.jp/
- 3サイトが同時受賞、「第3回企業ウェブ・グランプリ」ベストグランプリが決定 | Web担当者Forum
- http://web-tan.forum.impressrd.jp/e/2009/12/08/7017
各賞は年間最優秀賞も含めて、渡されるのは賞状とトロフィーのみ。しいて付け足すなら、年間最優秀賞受賞サイト担当者は翌年の懇親会(イベントの最後に軽く乾杯する程度のもの)の司会が回ってくるという副賞があるくらい。
業務もテーマも異なる50サイト以上が集まって、賞毎にノミネートとグランプリを選んでいく。作り手側である私が絡めたのは、RIAC特別賞を昨年から許されたから。他にそんな形で参加したのはオールアバウトさん。特別賞はノミネートの幅が広く、今回は50サイトのリストが渡される。昨年は約20サイトだったので、目を真っ赤にしながら吟味しつつ、その拡大ぶりも実感できた。
少し前ならトップページを見るだけで、なんとなくそのサイトの個性というか特性が感じとれた。でも最近はそうでなくなりつつある。様々なコミュニケーションの方法を幾つも織り交ぜているサイトも多い。トップページと、他のページ群(スペシャルコンテンツやスペシャルサイトとなることも多いが)の管轄者が異なっている企業も多いように感じる。
企業の正面玄関で伝えるべき方向性と、その有する製品について伝えたい方法とでは微妙に変えた方が効率が良かったりするからだ。もちろん、金太郎飴のように、どこを切ってもぶれのないブランディング手法も健在だし、正攻法としての揺るぎはない。でもスピードを求めるコミュニケーションでは、異なる方法も有効だ。
情報発信をする企業として、統一感を求めつつ、個別対応が許される余地というか「のりしろ」も想定する、そんな流れが大きくなっているようにも見える。一人の人間が様々な表情を持つように、一つの企業が様々な表情を持つ。デザインガイドライン的な規約を持ちながら、多少の自由度を現場に与えることもそんな流れかもしれない。そして、そんな流れがあるということは、そのような人材がいるということだ。
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日頃、各社のWeb担当者とどう対峙しているか。もちろん発注者としての立場が最大ではあるけれど、大きな声では書けないが(?)、仕様を揺らす敵であったり、予算をかき集めてくれる味方であったり、一喜一憂を共有する友であったり、世界で唯一公開までの苦労を分かち合える兄弟であったりする。
打ち上げを除いて基本的には会議室という閉ざされた場でのコミュニケーションしか重ねていないのだが、今回は晴れの舞台での素顔を見せて頂いた気がした。直接私が関わったWebサイトはないのだが、「のり」が似ているというか、さすがにWeb系の匂いが漂うホームグラウンド的な心地がする。何か同じ苦労を理解しあえる共有感みたいなものを感じる。
奇しくも、司会者が幾つかの場面でインタビューをしていた言葉がささった。
司会「あのサイトは何年おやりになっているんでしたっけ?」
担当「3年ですね」
司会「そんなになりますか。わが子のようなものですね」
担当「まさにそうですね...」
アクセスの量に一喜一憂し、1ピクセルにこだわって作りこんできたサイトに思い入れが生まれない訳がない。それが年単位で継続しているのであれば、尚のことだ。自分達が担当している仕事にどう向き合っているかが伝わってくる。
そして受賞の瞬間も見ていて気持ちが良かった。参加者は自分のチームを代表しているし、それはその企業の人たちだけではない。制作に関わった方々も一緒に壇上に上って祝福しあっている。素直に「いいなぁ」とつぶやいてしまう。渡されたトロフィーを高々と上げて、会場にいるチームメンバにガッツポーズをする人もいた。輝かしい笑顔が本当にまぶしい。
あぁこういう笑顔を支援するのが我々の仕事なんだと再認識した。Web屋の原点というか、ゴールというか。日頃エンドユーザのためとは言ってはいるが、エンドユーザのためになるような方法を一緒に見つけ出し、様々な課題をクリアしながら、よりよいコミュニケーションを実装しているのだが、とは言ってもお客さんに喜んでもらうのを忘れては本末転倒だ。
失礼な言い方かもしれないが、この賞は正直言って仲間内で決めているものだ。でもそれこそが大きな意味のあることかもしれないと思わされた。上述のURLの記事にもあるが、日本IBM最高顧問の北城恪太郎氏は次の言葉でこのイベントをしめた。
「企業自身や製品サービスを紹介する、ウェブサイトを作る影で苦労している人達がお互いを表彰しあおうという趣旨でやっていたのですが、こうして盛大に開催できたのは嬉しいことです。お互いのサイトを見ながら、地道な苦労や活動を認め合う、そういう意味で企業ウェブ・グランプリは意味がある」
FlasherがFlasherにしか分からない苦労を分かち合う空間となんら変わりない。泣き出したいことや、辛かったこと、板ばさみにあっても尚公開にこぎつけた喜び、諸々の大人の事情や政治力に翻弄させられ本筋を見誤った苦労話などなど、Wen担当者にしか分からず、Web担当者なら分かるだろう事柄が沢山ある。
Webが世の中に浸透するとは、こういった人たちが増えていくということも指すのだ。そして共通の苦労はなんらかの方法で軽減し、共通の喜びはもっと大きくできるかもしれない。そのためにリアルな交流が役に立つはずだし、実際に受賞者の笑顔はそれを証明しているのだろう。
もはや誰も無視できない情報経路となったWebを支える人たち。それがWeb屋だけではないとも、戒められもした。たかがWeb、されどWeb。そんな言葉も浮かんでくる。よりよい歩みを目指したい。
以上。/mitsui