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達人伝 Vol.4:どんだけ考えっちゅうねん

作者の登場人物の描き込みは蒼天航路で実証済みだが、この作品は更に一人ひとりが個性を放ってくる。今回のスポットライトの先は、無名(ウーミン)。信陵君も初登場だけれど、やはり無名の深堀りがテーマだと感じる。

そして、登場人物が深まるほど、彼らの行動や言動が身近に感じられるようになる。読み進むうちに、どの時代の話なのかがおぼろになってくる。彼らが直面している問題が、今現実に目の前に広がっている問題に重なっていく。

老人の占いから垣間見える秦の未来。その絶望的な渦中に突き進む侠たち。でも、その覚悟も、決意も、どこか涼やかで軽やか。守るべきことは大きいけれど、揺るがない強さが伝わってくる。使命感も命の大切さも、綺麗事で示すのではなく、人の多様さや豊かさを丹念に描くことで伝わってくる。「こんなおもろいもんを味あわんのは勿体無いやろ」、そんなセリフがコマの裏から聞こえてくる。

同時に、既得権者側の硬直化・腐敗・高慢・他への蔑みも高まっていく。舞台を降ろされる側、そして降ろされるに足る理由。時代の流れに逆らって、登りつめた場所に留まろうとする者たちの悲哀。でも彼らなりの理屈があるという現実。そして、それすらも多様さのひとかけら。

困難に向かい合う姿勢も様々。諦めや観念へのアラートがここかしこに潜んでいて、更にこんな多様さを保ちつつ束ねるリーダー論にも触れていく。超人「曹操」とは違った形で、人への興味に飽きない英雄たちが姿を見せる。信陵君も、孟嘗君に負けずに味わい深い。そして会話の先には、「良い戦い方」への模索がある。同様に「悪い戦い方」に想いが飛ばされる。読みながら、色んな争い・戦い・紛争が浮かんでくる。無名ではないけれど、「どんだけ考えっちゅうねん」。

マンガ論的には、王欣太氏の特徴だけれど、時間の流れの表現が絶妙。コマとコマの間を時間が自由に行きつ戻りつ流れていく。そんな中、蒼天航路とテンポが違うのは、超人曹操ではなく、ピュアな荘丹が道案内役だからか。彼の合いの手にどこかホッとしたものを感じる。

王欣太氏のコメントにある司馬遼太郎氏の部分は、「人間の心には、鳴るものがある。」で検索すれば、新潮社のサイトで読めます。欣太氏の作品を読んでから、この文書に触れれば、映像化するプロセスも夢想できます。そうかぁこの文書からこの絵が出来上がるのか。そして蒼天航路の赤壁前の土着の色濃い人達との交流も思い出せて二度美味しいw。

あと、惜しむらくは、紙&デジタルは同時刊行していない点。傍においていつでも見返したい作品なので是非とも実現して頂きたい。

恒例の次巻予告は「2014年春発売予定!!!!!」。…すでに春やがなw。既に待ち遠しい。